• このエントリーをはてなブックマークに追加
  • RSS
VRの360°を知る総合メディア
banner
ホームインタビュー経済産業省がVRに見る可能性 ~「先進コンテンツ技術による地域活性化促進事業」補助金の本質を訊く!~
インタビュー
2017/09/28 10:00

経済産業省がVRに見る可能性 ~「先進コンテンツ技術による地域活性化促進事業」補助金の本質を訊く!~

VR関連企業が一斉に反応してしまった『先進コンテンツ技術による地域活性化促進事業』に関わる補助金。今年2月に経済産業省が初めて予算化した事業だ。

クールジャパンのコンテンツ事業といえば、2011年から開始された官製事業というイメージもあるが、これは正確ではない。官主導ではなく、クリエイティブ産業向けの政策としてリスクマネーを補助することであと押しする事業である。また、2020年に向けてのインバンド期待の政策テーマ『地域活性化』という言葉にも目が留まる。地方創生予算がコンテンツ産業の注目を集めている中、新しい技術の導入と提案は、今後の新技術の発展のためにも聞いておきたいところ。

先進コンテンツ技術とは「VR、ARやドローン、AIなど」とのこと。「VR、AR」と「ドローン、AI」が並列にあることに抵抗を覚え、「昨今のデジタル系バズワード並べたら、注目集まるんじゃないの?」的な展開だったらいやだなとも懸念して、経産省のご担当者にちょっとビジョンを聞いてみたいと取材を打診。7月下旬、場所は経産省の会議室。直撃取材を敢行し、お話を伺った。

経済産業省 商務情報政策局 コンテンツ産業課
 補佐(総括)大江朋久さん
 係長(技術) 小林龍さん
 企画・技術担当 望月豊さん

IMG_5171_sum
△左から、小林龍さん、大江朋久さん、望月豊さん

今回参加していただいたさわやかな経産省の若き3人。総括している大江さんを中心に、約1時間お話しいただきました。

取材/岩崎真也、鮎川ぱて 文/岩崎真也

クールジャパンの領域をテクノロジーに拡げる新展開

鮎川 今回のコンテンツ制作支援『先進コンテンツ技術による地域活性化促進事業』でVRやARなどがキーとなっていることについて、経産省がもつ新技術へのビジョンをお伺いできればと思います。

大江 経産省では、いかに海外展開するかを重点とし、新しいコンテンツ産業政策を推進してきました。今回の補助金はクールジャパン政策の新しい試みの一角です。クールジャパン全体としては、従来のようにアニメやゲームの展開を引き続き重視しつつ、もうひとつ新しい軸として、テクノロジー支援を打ち出していきたいと考えています。

新しい市場を作ることは、そのコンテンツを発表する場である「メディア」を作ることに密接に関係しています。それをなしうるもっとも象徴的なものがVR、ARだろうと捉えているところです。

鮎川 テクノロジーでもあるVRを重要視されていると。みなさんが近年、これまでの流れを変えられたのでしょうか?

大江 まだこれからですね。現状、民間の取り組みのほうが国の先を進んでいると思います。その上で国がやる意義がどこにあるかというと、全体をいかに変えていくかということです。そのための象徴的な事業が『先進コンテンツ技術による地域活性化促進事業』です。

まず我々のコンテンツ政策として、技術の展示会【Innovative Technologies+(iTECH+)https://www.dcexpo.jp/innovative-technologies】を開催しており、今年度は初の取り組みとして、最先端のコンテンツ技術とコンテンツのクリエイターたちを合わせるマッチングの場も提供します。このような技術の展示会は民間でもしばしば行われていますが、『先進コンテンツ技術による地域活性化促進事業』は、最先端のコンテンツ技術を使っての映像制作を、「やり方指導」という具体的なかたちで支援するというチャレンジングな事業なんですね。

鮎川 では、『先進コンテンツ技術による地域活性化促進事業』の補助金の目的を教えてください。

大江 まず第一には、ARやVRなどの先端コンテンツ技術を活用した映像制作をしていただいて、魅了あるコンテンツを配信して地域活性化に繋げるということです。

そして、トップを支援することと同時に、その成果をいかに横展開で共有するかを考えています。具体的には、VRの映像制作ガイドラインを作って、それを普及させていきたいと考えています。撮影方法のノウハウだったり、コンテンツ制作者にとって有用な注意点をまとめたものを整備し、普及させていくことが狙いです。

鮎川 なるほど。それはコモンリソースとして誰もが利用可能なかたちで公開されていくんですね。

大江 とくにVRには「映像酔い」という問題があります。すでに360度カメラが普及してるおかげで、いろんな人たちが映像作品を作れます。それはいいことなんですけど、中には観ていると酔ってしまう作品もある。とくにVR映像は、一度でも気持ち悪いと感じてしまうと、もう二度とトライしてもらえなくなる。

鮎川 たしかに。トラウマになっちゃうんで(笑)。

大江 生牡蠣といっしょで、1回あたると「もういいです」となっちゃう。そうすると、いいコンテンツが出てこないんですね。昔流行ったけれど定着しなかった3Dテレビは、そういうケースだったように思います。

そこで、最低限、VR酔いが起こらない撮り方、あるいは注意すべき点などをまとめてそれを横展開していくことを考えました。その上で、質のいいVR映像技術の使い方や、ベストプラクティスをまとめていけば、いいコンテンツが出てくるんじゃないかなと。

技術、撮影法の両方のノウハウを事業者へのコモンリソースに

岩崎 今回は14社の事業が採択されました。それらが同じプラットフォームで公開されるということはありえるんですか?

大江 我々の役割はその成果集をまとめることですから、プラットフォームの選択はそれぞれの映像制作者にお任せしています。各事業ごとにそれぞれの戦略などがあるのでしょうから、同じプラットフォームということにはならないかと思います。

補助金は、「メイキングのノウハウ」を提供していただくという約束の中で出すものです。今回交付された民間団体である映像産業振興機構(VIPO)が補助金を分配します。同機構には、2つの重要ミッションを与えています。応募してくださった中から採択者を選ぶことと、ノウハウをとりまとめて横展開することです。

ノウハウといっても、技術のノウハウと、撮影のノウハウという2種類があります。その両方をパッケージして、横展開可能なかたちに落とし込んでもらいたいと考えています。技術については、VR学会の廣瀬通孝氏(東京大学教授)を委員長とする、技術的な取りまとめを舵取りする検討委員会を設置してもらいました。また撮影方法については、従来の2次元カメラ以上に、演出や工夫が幅広く求められると思いますが、それらに関するベストプラクティスをまとめたいと考えています。

岩崎 採択された企業の、VR、AR、ドローン、AIのジャンルバランスは?

大江 正確な分析はまだしていませんが、ARよりも圧倒的にVRが多かったですね。ドローンとVRの組み合わせもありました。

鮎川 地域活性ということですので、「その場に行くと失われた??城が見える」というような、ARも多いのかなと予想していました。

大江 まずVRで映像を配信し、事前に体験してもらって、「ああそこに行きたいな」と思ってもらう、という連携のほうが多かったと聞いていますね。

経産省内外の連携可能性を探るテストランでもある

岩崎 撮影技術に関してです。VRやARは、現状どうしても海外製の技術に依存してしまっています。このあたりを経産省としてどうお考えですか?

大江 垂直統合と水平分業という2つの方向性があると思います。この場合の垂直統合とは、テクノロジーの提供者とコンテンツ制作を縦で結びつけることですよね。しかしこの技術しか使ってはいけませんという状況がイノベーションを促進するとは考えにくいと思っています。

我々はやはり、水平分業を目指しています。コンテンツ制作者は技術を自由に選べるし、技術提供者も自由に提供できる。その環境の中で最適なものを選ぶことで、いいものを作る。結果として消費者が喜ぶものが市場に増えて、市場を大きくする。結局は、市場が受け入れるかどうかだと思います。

技術も日本製であるに越したことはないんですが、そこにこだわって消費者が喜ばないものを作りつづけるなら、みんな共倒れです。市場拡大の中で消費者の目線に立って、最適なものをお互い選び合うということが大事だと思います。

鮎川 ただ、その技術の部分を押さえることは、ゲームルールを握ることにもなると思います。

大江
 よく言われるように、日本にFacebookやAppleやAmazonがあったなら、それは素晴らしいことです。でも、いないという中で、どうしますかということを考えていくしかないですよね。

岩崎 より優れたVR実装のために、通信容量の大きい「5G」の整備と公開が待たれていますが、これは総務省の管轄ですよね。経産省と総務省で連携されていることはありますか?

大江 とくに連携していることはいまのところありません。5Gがあればコンテンツの表現領域はどんどん広がって行くわけですが、それをいかに使っていいものを提供できるか、ビジネスを拡大するかということを考えていくのが経産省側の役割です。

鮎川 コンテンツと技術が連動すべきというコンセプトに則って、省内の別の部署との連動はあるのですか?

大江
 コンテンツ産業課が配置されている商務情報政策局との中には、IoTやコネクテッドインダストリーズを支援する部署があります。そういう、情報に関連した部署との連携は促進していきたいと思っています。

鮎川 新しい省内連携自体を模索されているところというか。

大江 今回の事業を新しい先行事例とすべく模索しています。いままでは、コンテンツの人はコンテンツの人であって、他産業の人たちと連携が進んでいなかったところがあります。連携が進んでいけば、具体的な課題が出てくるでしょう。そうなったとき、「課題解決をいっしょにやろう」ということで、経産省の出番になると思います。これからそのような異種産業間の連携を促進していく中で、経産省の役割も増えていくのかなと思っています。
 
鮎川 業界のほうも、映画は映画であり、ゲームはゲームであり、アニメはアニメであり、と別れてしまっている側面があると思いますが、VRは違った産業との連携を促すポテンシャルが大きい技術だと思います。

大江 いま試しでやってみると、本当にいろんな課題が見えてくるんですね。それがある意味楽しみでもあるんです。

VRという革新的テクノロジーの登場で、ようやくコンテンツ制作者や従来の事業者もテクノロジーに注目するようになってきたと思います。その流れに乗じてさらに我々も手を携えることで、コンテンツとテクノロジーの連携をさらに進めていきたいと思っています。

強いコンテンツこそがゲームルールを決定する

大江 正直、コンテンツ企業とテクノロジーとの連携についてどう思われますか? ハリウッドはつねに最新テクノロジーで撮った映画が出てきますよね。日本ではなかなかそうなっていないんじゃないかと、我々も問題意識を持っているわけです。

鮎川 あまりに古い例ですが、CDは最大の成功例のひとつだったと思います。あれはソニーとフィリップスの開発ですよね。垂直統合というわけではなくても、ハードメーカーのソニーをレコード会社のソニーによるコンテンツが後押しした部分があったのかなと。また、コンピュータOSのTRONプロジェクトは、各立場の連携によって世界標準OSの座を獲得しようという野心があったと思います。

規格とかOSとか、ある意味の市場のゲームルールを握っちゃうのは本当に強いことだと思いますが、VRはまだ群雄割拠な状況ですから、攻め時という考え方もできるのかもしれないと思います。

大江 そのときに、コンテンツ制作者が技術に詳しくなっていくことが、規格を取っていくことに対して意味のあることかと思います。00年代にもBlu-rayとHD DVDの規格競合がありましたけど、結局最後は、消費者がどちらの技術に乗っかったコンテンツを選ぶかということで流れができたと思います。

だからむしろ日本のコンテンツ事業者が、面白いアニメやコンテンツに力を入れてそれらが世界に普及していくと同時に、それに付属するテクノロジーとして、VRの立ち位置や市場に関するルールメイキングもできていくのかなと……これは多分に妄想が入っていますが(笑)。

国の役目としては、最先端の取り組みを応援していくことと、全体の底上げのために、「ここに行けば集約された議論がある」という場を作っていくことが大事だと思っています。今回VRの制作ガイドラインをまとめて、それをオープンなかたちでみんなでブラッシュアップしていくなかで、業界同士が力を合わせる土台となるのではないかと期待しています。

鮎川 VRは日進月歩ですから、この事業も、速度が出るといいですよね。

大江 我々はコンテンツ産業を応援する立場ですけど、いまのところVRは、エンタメ市場だとゲーム、アニメが注目されてます。そこにとどまらず、VRをキーとしながら、医療、観光、製造業など、知財産業が集まる。そうしてビジネスチャンスが広がっていくことを期待しています。テクノロジーによって新しい市場が広がることを、経産省として支援していく。その第一歩が今回の事業の狙いであるわけです。

鮎川 本日はありがとうございました。影ながら応援させていただきます。


クールジャパン関連予算として新しく作られた事業としての『先進コンテンツ技術による地域活性化促進事業』。正直にいえば最初は少しだけ否定的な気分を持ちながら取材に臨みたが、今後のプロセスをみつながらも、過去から現在の反省を生かした新しい事業としての発展を見つめながら意見交換を求めていけたらと考えている。採択された14社のみなさまへの期待は高まるばかり。VRbeatとしては、制作プロセスなども追いながら採択企業の制作物などへ検証も続けたいと考える。

『先進コンテンツ技術による地域活性化促進事業』について
この補助金の説明会には地方テレビ局、電機メーカー、広告会社、技術系からコンテンツ系まで幅広いジャンルの制作会社などが集まり、第1回説明会には72社90名、第2回説明会には87社96名の方が参加。公募期間は5月9日~25日で、合計77社/82件が応募、外部有識者による審査の結果、当初10社程度を採択予定としていたが14社を採択。1社あたりの補助率は1/2から2/3。補助金の上限は1,000万円。

となると、採択企業は最高で2,160万円(税込)の成果物を作ることなる。そして、この14社の制作物は、制作物としての公開と同時に制作に関わった技術の公開を要求されてい.
。コンテンツ制作の些細な技術的な事例を公開してもらうことで、先端技術を使った先進コンテンツの制作の見本と事例を国内のコンテンツ産業に示すことも要望されているのだ。

これはすごく楽しみ。現在VRは、期待されているわりに、満足できるようなコンテンツがまだそれほどないという意見も少なくない。斬新な制作方法など、採択された先端企業のみなさまにはどんどん公開してもらいたいとも思う。採択企業14社のもっとも重要な社会的な責任部分とも言えるだろう。

成果物は、交付決定日以降、来年の平成30年2月28日までに納品される予定だ。おそらくその後、各コンテンツが順次公開され、制作に関わる技術的なガイドライン※1が公開されることになる。

採択企業と提案企画
・株式会社IMAGICA
http://www.imagica.com
地球がむき出しの島 三宅島 リアル自然体験VRコンテンツ制作

・株式会社NHKエンタープライズ
https://www.nhk-ep.co.jp
360度カメラや超広角レンズを使用した歌舞伎コンテンツによる地域経済の活性化

・株式会社クリーク・アンド・リバー社
http://www.cri.co.jp
つくば周辺のサイクリングVR生中継等による地域活性化事業

・株式会社五藤光学研究所
http://www.goto.co.jp
360度全球ドローンによる石川県を体感するVRコンテンツ

・一般社団法人CiP協議会
http://takeshiba.org
東京都竹芝地区の竹芝ふ頭プロモーションに係る事業

・ソニー企業株式会社
ARテーマパーク(聖地巡礼)~スマホアプリと街の新たな関係~

・株式会社テレビ熊本
https://www.tku.co.jp
あの日を忘れないために!熊本城VR動画コンテンツ制作プロジェクト

・有限会社電マーク
https://www.facebook.com/denmark.ne.jp/
「ラフティング世界選手権2017」映像配信を核とした地域活性化促進事業

・東海テレビ放送株式会社
http://tokai-tv.com/vrtokai/
360度VRアプリ「VR TOKAI」による観光ルート「昇龍道」情報発信事業

・株式会社トリプル
中山道トレイル ヴァーチャルツアーエクスペリエンス

・株式会社ハコスコ
https://hacosco.com
ドローン3次元計測+実写による文化遺産インタラクティブVRと観光誘致のパッケージ制作

・北海道文化放送株式会社
http://uhb.jp
北海道上川地方におけるVR映像、ドローン映像を活用した観光PR事業

・株式会社ヨネ・プロダクション
http://www.yoneproduction.jp
8K顕微鏡撮影システムを使った世界初の超高精細科学映画「ミクロコスモス」上映

・株式会社読売テレビエンタープライズ
http://www.yte.co.jp
鳥人間VRトラベルin滋賀

※1 採択企業の補助金事業への具体的な事業概要は8月末までに特定非営利活動法人 映像産業振興機構(VIPO)のホームページ(https://www.vipo.or.jp)またはメールにて公表されるとのこと(予定)。また、順次各社の制作プロセスを紹介するメイキングビデオなども公開しながら、最終的にVR・ARの先進技術を使った制作方法のガイドラインをまとめる予定。

取材/岩崎真也、鮎川ぱて 文/岩崎真也

この記事を書いた人
VRbeat編集部

VRbeat編集部

VRveatをシェアしよう
Back to Top